これまでに受けたご質問を問答形式でまとめた冊子『インドネシア進出問答集』の中から分野別に主なものを上げてみました。
操業コスト
質問:日本人をジャカルタ周辺に単身で駐在させる場合、給与はどんな形で支払うのでしょうか?
回答:単身の場合で、家族が日本に残っている場合は、日本での給与のほとんどはそのまま継続して、現地での生活費を別途、現地給与として支払う形が多いと思います。
質問:インドネシアでは正社員を雇用すると、基本給の他に色々な手当を支給しなくてはならないと聞きますが、具体的にどんなものがあるのでしょうか?
回答:最低限必要と思われるものとして食事手当と通勤手当があります。食事手当は社員食堂を設けて現物支給する場合は不要となりますが、断食期間に食事を出さない場合は代わりに現金支給となります。相場としては1食当たりRp.10,000以上でしょう。通勤手当も会社が通勤バスを用意する場合は、その区間分を控除した金額となります。他にも家族手当、勤続手当、役職手当、技能手当、皆勤手当など、会社の方針と組合との合意に基づいて支給する場合があります。但し、固定手当の総額が総賃金の25%を超えることは認められません。
投資条件
質問:今がインドネシア進出のチャンスであることは判ったのですが、最低投資額約8千万円や最低自己資本2千5百万円を独資として用意するのは難しいです。
回答:資金はあるが技術的な面で日本企業との取引に躊躇している、現地華僑資本の同業者と合弁で進出する方法があります。インドネシア商工会議所などを通じて事前に紹介してもらったいくつかの企業を訪問し、オーナーと腹を割って話してみると意気投合出来て、信頼出来るビジネスパートナーは見つかると思います。
質問:現地の合弁相手として華僑ではなく、純粋なインドネシア人はいないのですか?
回答:製造業や流通業においては99%が華僑資本です。インドネシア資本の会社もありますが、大手は政治がらみの資源開発などの分野です。華僑資本はインドネシアの市場を熟知しているので、彼らと組むことで販売面での強みを持つことが出来ます。
環境規制
質問:わが社の工場は工業排水を多く出すが、インドネシアの排水規制は日本と比べて厳しいのでしょうか?
回答:インドネシアの排水規制は日本と同じレベルと言われています。特に日系の工業団地では専用の処理施設を完備しており、それをセールスポイントにしています。入居企業に対しても規制への対応を義務付けています。
質問:環境対策は工業団地で対応しているから、自分で規制対応の証明などを取得する必要はありませんか?
回答:土地利用許可や事業許可を得るに際しては、必要に応じて以下のような許可を管轄の地方政府から取得することが必要になります。これらは工場建設のゼネコンに相談すれば対応してくれると思います。
迷惑条例許可証明
環境影響分析承認
排水不再利用承諾書
排水管設置承諾書
排水前処理承諾書
排水定期検査報告承諾書
残滓処理承諾書
地下水、海水汲み上げ許可
税金制度
質問:インドネシアで税務申告する際には移転価格税制に気を付けろと良く耳にしますが、具体的にはどんなことを言うのでしょうか?
回答:簡単に言うと、日本の本社に利益が出るように、インドネシア現地法人に対する材料や部品の輸出価格を不当に高くしていないか、日本本社への完成品輸出価格を不当に安くしていないか、その結果インドネシア政府に本来納付すべき税金が不当に削られていないかと、税務署に疑われてしまうことです。
質問:投資に対するインドネシア政府からの優遇措置としては、どんなものがあるのでしょうか?
回答:新規投資または追加投資に対する一般的な優遇措置としては、輸入資本財および当初2年間の輸入原材料に対する輸入税、付加価値税および前払法人税の免除があります。
労働法
質問:インドネシアの事情が良く判らないので、就業規則は日本本社のものを参考にして作ることは可能でしょうか?
回答:それは避けるべきです。インドネシアの就業規則に記載すべき項目は規定されており、細則についてもインドネシア労働法に沿っていないと労働移住省から正式に認可されません。幸い、見本となるべき雛型が公開されていますので、それを参考にして自社のものをつくるべきです。
質問:期間契約雇用の途中で正規社員に登用することは出来るのでしょうか?
回答:もちろんです。途中でなくても、契約期間の延長または更新の度に、勤務態度や能力に応じて、ある一定の割合で正規社員に登用する制度を設けることで、優秀な人材を発掘することがあります。但し、逆に正規社員に登用されて解雇の可能性が少なくなった途端に、勤務態度が低下する場合もあることを予め承知しておくべきでしょう。
カントリーリスク
質問:インドネシアは世界最大のイスラム国家と言われていますが、アラブ地域で起きているようなテロの危険はないのでしょうか?
回答:今の世の中でテロの危険が無いところなど皆無でしょう。極論はさておき、インドネシアは全国民約2億4千万人の90%がイスラム教徒ですから、確かに世界で一番イスラム教徒の多い国であることは確かです。しかし、ここが意外に皆さん誤解しているのですが、インドネシアはイスラム教国ではありません。約60年前にオランダから独立した時に定められた建国五原則でも、唯一の信仰を持つことは義務付けられていますが、イスラム教を強制している訳ではありません。その証拠に国民の祝日には、イスラム教、キリスト教、仏教、そしてヒンズー教の祭日が当てられているのです。
質問:天災や政変と言った大きなリスクの他に、日々の仕事の中で注意しなくてはいけない、インドネシア特有のリスク管理としては、どんなことがありますか?
回答:盗難に対するリスク管理があると思います。インドネシアでは盗難品の売買ルートが色々とあるようで、特に、工場で使われる部品は高く売れるようです。自社の盗難品が部品市場で売られているのを目にしたことや、工場まで売りに来た者まである始末でした。
サプライチェーン
質問:うちは某大手自動車メーカーの、ジャカルタ東部に出来た新しい組立工場に、部品をJITで納入しなければならないけれど、特に注意しなくてはけないことは何でしょうか?
回答:同じ団地の中であれば心配ないでしょう。しかし、隣の団地であっても一般道を経由するとか、高速道路の料金所が専用に開設されていな場合などは、距離は短くてもその地点で大幅に時間を取られ、納入時間に間に合わないなどの事態も懸念されます。事前に色々な時間帯での混雑状況を念入りに調べておくことが必要です。
質問:コストダウンや納期短縮を実現するために、現地調達を進めなくてはいけないと思うが、ローカルサプライヤと取引する際に注意することは何でしょうか?
回答:インドネシアで製造業を営んでいる地場産業のほとんどは、華僑と呼ばれる中国系インドネシア人がオーナーであることをまず理解しておいて下さい。その数はたくさんありますが、外国資本のメーカーから長年鍛えられた経験あるところでも、品質、納期、コストについての意識は、日本のサプライヤに較べて甘いという前提で付き合う必要があります。
産業インフラ
質問:最近インドネシアに進出している日本企業の多くはジャカルタ東部の工業団地に入居しているようですが、インドネシア政府からの規制みたいなものがあるのでしょうか?
回答:インドネシア政府が件の工業団地への入居を指定している訳ではありません。たまたま、日系の自動車、オートバイメーカーがジャカルタ東部の工業団地群に新工場を建設しているため、部品メーカーもJIT納入に対応すべく、その周辺の工業団地に入居しているだけです。
質問:設備機械の製作業者はどうやって探すことが出来るのでしょうか?
回答:既に現地で操業している同業の日系企業で聞いてみる、インターネットのイエローページで探してみる、あるいはジャカルタ周辺の割と古い工業団地の中にありますので、そこに足を運んでみるなど、色々なアプローチがあります。建設会社や電気機械工事会社も情報源として期待出来ます。
社会インフラ
質問:日本では会計士や税理士などと契約していますが、インドネシアでも同様な契約が必要でしょうか?
回答:外国資本の会社が税務申告する場合、事前に監査法人の審査を受けることが義務付けられています。そのため、監査法人の資格を持つ会計士と契約を結んでおく必要があります。
質問:インドネシア国内移動に際しての交通機関の利便性はどうでしょうか?
回答:インドネシアは群島国家であることから、国内の航空会社は多くあり、航空便も非常に多く、殆どの都市に飛んでいます。ジャワ島内やその北隣のスマトラ島へは鉄道を使うことも可能ですが、車を使い数時間で行けるところを除き、時間効率を考えたら国内移動は基本的に航空便を使うことをお薦めします。余暇でフェリーを使い他島に渡ることも可能ですが、時々嵐に遭って沈没するニュースを聞いていますので、あまりお薦め出来ません。私も片道3時間くらいの島から帰る時に、嵐に遭って木の葉のように揺れるフェリーの中で、もうだめかと覚悟したことがあります。
人的資源
質問:立上当初は許認可や人材募集などが急務であり、その後も労務管理の要としての人材が重要と思うので、将来の総務部長候補を優先したいのですが、どんな方法がありますか。
回答:一番確かな方法は現地のリクルート会社に依頼することですが、三か月分の給与額相当の料金がかかります。自分で探す場合は、在日インドネシア留学生協会(PPI Jepang)、在インドネシア日本留学生OB会(KAJI)、インドネシア元日本留学生協会(PERSADA)などを通じて、日本留学経験者を紹介してもらう方法や、日本語学科を持つインドネシア国内の有名大学を訪ねて卒業生を紹介してもらう方法があります。
質問:うちは規模が小さいので日本人駐在員は一人だけしか置けないのですが、その人間には事前にどんなことを勉強してもらう必要がありますか?
回答:まずはインドネシア語でしょうね。最近は発音を収録したCD付きの入門書もたくさん出回っていますので、まずはそれらを使って基本を身に付けて、その後で私が作った『業務用インドネシア語文例集205』で応用力を高めてもらえば良いと思います。また、経営者としての責任がありますから、財務会計の仕組みを理解して、数字の見方が解るようにしておく必要があります。経理スタッフとマネージャーはインドネシア人に担当してもらうとしても、決済権を持つのは日本人になるのが普通ですから、その場で判断出来るだけの知識が求められます。都度、日本の経理に相談している姿は絶対に見せてはいけません。もしかしたらごまかしても判らないのでは・・・と言う出来心を経理のスタッフに誘発させないとも限りません。
国内市場
質問:既にインドネシアで事業を展開している取引先からは、早く出て来て欲しいと言われているのですが、経営の保証までしてくれている訳ではないので、進出した後も本当に仕事を確保できるのか心配です。
回答:大手の組立メーカーにはインドネシア政府から常に現地化比率向上の圧力がかかっており、また継続したコストダウンのためには部品の現地化は避けられないことです。しかしインドネシアの地場産業にそれを望むのはまだまだ時期尚早であるため、日本で取引のある外注先に対しては早く出て来て欲しいと要請することになります。だからと言って、進出のお手伝いから、操業後の仕事の確保まで面倒を見てくれる会社は多分ないでしょう。
質問:日本の昭和40年代の高度成長時代は参考になるでしょうか?
回答:インドネシアの2000年以降の経済成長は、その規模と成長率が日本の当時の状況と全く同じです。政治、文化、宗教、社会、気候などの個別の違いはありますが、思い出してみる価値はあるでしょうね。
生活環境
質問:怪我や大病で緊急事態で日本まで帰れない場合はどうしたら良いのでしょうか?
回答:シンガポールまでは1時間で行けますから、まずはそこまで搬送することをお薦めします。また、病状によっては定期便の航空機に乗せてもらえないこともありますので、プライベートジェットによる緊急搬送と病院の手配を含めた保険に加入しておくと安心です。私も部下の日本人を緊急搬送した経験がありますが、チャータージェットを成田空港まで往復させるのに1,500万円かかりました。しかし、ほとんどは保険でカバー出来たので助かりました。
質問:日本人駐在員は全員単身赴任を予定していますが、生活する上で特に注意することは何でしょうか?
回答:一般論ですが、私も赴任する際にインドネシア大先輩の恩人から言われたことで、『体力7、気力2、知力1』の配分で生活することです。日本での組織の中で仕事をしている時は、自分が倒れても誰か他の人がカバーしてくれるものですが、インドネシアのような海外ではそうは行きません。自分の仕事をカバー出来るのは自分しかいないと考えて良いでしょう。ですから、良く寝て、良く食べることを基本に、熱帯で消耗の激しい体力の維持を、常に最優先にして欲しいと思います。