社内事情や業界の動向だけでなく、もっと広い視野と長い時間の流れから進出の是非を再考してみましょう。
人類は20世紀において大きな二つの実験を行いました。
一つ目は共産主義革命でしたが、ソビエト連邦の崩壊とその後に続いた東西冷戦の終焉で、形骸的に残っている一部の国を除き失敗に終わったと言って良いでしょう。
二つ目はその後に起きたグローバル化という名の下の物、金、人の国境を無くした自由な移動でした。
これは先頭を走っていた欧州連合(EU)での貧困国と富裕国の間の軋轢と移民問題という理想と現実の矛盾から、もはや失敗と言わざる得ない状況に来ています。
実はこれら二つの実験には共通した目的があり、それは一つのイデオロギーで国境を無くして世界を統一しようというものでした。
日本も例外ではなく、特にグローバル化の動きの中では他国に先立って海外進出を展開して来ました。
その背景には、日本は資源の無い小さな島国であるから、資源を輸入して作った製品を輸出するか、海外市場に進出して現地生産をして生き残るしか道は無いとの思い込み、あるいは刷り込みがありました。
しかし日本の近年のGDPに占める輸出の割合は20%に満たず、一番多くを占めるのは実は民間国内消費の60%であることは、公開されてはいるものの案外知られていない事実です。
日本は最近でこそ順位は中国に抜かれたものの、世界第三位のGDPを持つ経済大国であり、輸出を除くその80%以上は国内市場での消費にあることを忘れてはなりません。
ただ直近の30年は政策の誤りから需要が伸びないデフレ経済が続いたため、他のOECD諸国並みに経済成長を遂げていたならば、現在の三倍程度のGDPを実現していたはずなのですが、このデフレ経済がインフレ経済に転じる可能性が見えないため、海外展開に活路を探すことは決して責められることではありません。
しかしそんな日本でも遠くないいつの日かはデフレからインフレに舵を切って、大きな国内市場が再生するかもしれません。
その時に、国内に既に供給機能が無くなっているという事態だけは避けたいものです。
そのためには、自社の市場開拓能力(マーケティング)、製品開発能力(R&D)、顧客管理能力(CRM)、そして商品供給能力(サプライチェーン)を今一度見直して、日本国内に残して維持強化するもの、海外展開することで補完出来るものを冷徹に取捨選択して、最後の決断を下すことを願っています。